「慰留」「遺留」の意味と違い

「慰留」「遺留」の意味と違い

「慰留」「遺留」の意味と違い

字面が似ており、読みも同じ言葉に「慰留」と「遺留」があります。会話をするシーンでは、前後の文脈から言葉の意味を推測するので不便はありません。しかし文書を書く際に、どちらを使う方が適切なのか、判断に迷ったことがあるのではないでしょうか。

今回は「慰留」「遺留」の意味と違い、用例などを深掘りしていきます。同じ「いりゅう」という読み方ですが、意味と使い方が異なるため、文脈に応じて使い分ける必要があります。ぜひ参考にしてみてください。

「慰留」

慰留

「慰留」は「相手をなだめて思いとどまらせること」「相手を引き止めようとすること」を意味します。相手を説得して思いとどまらせる行為を指します。「辞表を出したが慰留された」「彼が慎重になるよう慰留した」「何度も慰留したが、最終的にはその意志を尊重した」などのように使われます。

「慰留」の「慰」は訓読みで「なぐさめる」「なぐさむ」と読み、言葉どおり「なぐさめる」「相手をいたわる」という意味を持ちます。「留」は訓読みで「とめる」「とまる」「とどまる」と読み、「その場にとめておく」「とどまる」「その位置から動かない」という意味を持ちます。よって「慰留」は「相手をなぐさめて(その場に)とめておく」という意味になります。

「慰留」は、相手の意思を尊重しつつも、組織や関係性を維持したいという意思を示す際に使用される言葉です。一方「遺留」は「物」に焦点を当てた言葉であり、「慰留」と意味がまったく異なります。

「遺留」

遺留

「遺留」は「所持品を置き忘れること」「物を死後に残すこと」という大きく分けて二つの意味があります。「現場に遺留品が残っていた」「遺留物」「犯人が現場に遺留した証拠」などのように使われます。

「遺留」の「遺」は「残る」「死後に残す」「置き忘れる」という意味を持ちます。「留」は上述したとおり「とめる」「とまる」「とどまる」と読み「その場にとめておく」「とどまる」「その位置から動かない」という意味を持ちます。よって「遺留」は「死後に残すこと」「その場に残された物」「忘れ置かれた物」という意味になります。

「遺留」は主に法律や犯罪捜査、医学分野などの専門的な文脈で使用される言葉であり、日常会話ではあまり頻繁に使われません。

このように、「慰留」「遺留」はどちらも「いりゅう」と読みますが、「慰留」は人に、「遺留」は物に焦点を当てた言葉になります。人を引き止めることを「慰留」、何か(物)を残すことを「遺留」と使い分けることができます。文脈によって、適切な言葉を選択することが大切です。

記事の参考文献

  • 編 藤堂 明保・松本 昭・竹田 晃・加納 喜光・ (2001)『漢字源』改訂新版, Gakken.
  • 公益財団法人日本漢字能力検定協会.「漢字ペディア」.<https://www.kanjipedia.jp/>(参照日2024年8月23日).
  • 編 新村 出 (2008)『広辞苑』第六版, 岩波書店.
  • 編  一般社団法人共同通信社  (2022). 『記者ハンドブック : 新聞用字用語集』第14版,共同通信社.
  • 編 沖森 卓也・中村 幸弘(2015).『ベネッセ表現読解国語辞典』
北澤篤史サイト運営者
1984年、大阪府生まれ。 著書 『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(講談社、2024) ことわざ学会所属。ことわざ研究発表『WEB上でのことわざ探求:人々が何を知りたいのか』(ことわざ学会フォーラム、2023)