「十分」「充分」の意味と違い
字面が似ており、読みも同じ言葉に「十分」と「充分」があります。会話をするシーンでは、前後の文脈から言葉の意味を推測するので不便はありません。しかし文書を書く際に、どちらを使う方が適切なのか、判断に迷ったことがあるのではないでしょうか。
本記事では「十分」「充分」の意味は同じなのか、なぜ二つの漢字があるのかなどの疑問と、その使い方について例文を用いて解説します。ぜひ参考にしてみてください。
「十分」
「十分」は「条件を満たしており満足できるさま」「満ち足りていて不足がない」「思い残すところなく」という意味を持ちます。類語として「存分」「十二分」などがあります。
「彼女はその仕事をするのに十分な能力を持っている」「十分な広さがある部屋」「彼は十分に理解してくれている」などのように使われます。
「十分」の「十」は訓読みで「とお」「と」と読み、「満ち足りているさま」「すべて」という意味を持ちます。「分」は「物事の程度や状態」という意味を持ちます。したがって「十分」は「物事の程度や状態が満ち足りているさま」という意味になります。
「十分」は下述する「充分」より一般的で、あらゆる場面で広く使われます。基本的には、ビジネスメールやお礼の手紙、公的な文書に使用する際には「十分」が推奨されています。
「充分」
「充分」は上述した「十分」と同様「条件を満たしており満足できるさま」「思い残すところなく」「不足するところなく」という意味を持ちます。「まだ時間は充分ある」「充分満足している」などのように使われます。
「充分」の「充」は訓読みで「みちる」「みたす」「みつ」と読み、「中身がいっぱい詰まる」「みちる」「みたす」という意味を持ちます。「分」は上述したとおり、「物事の程度や状態」という意味を持ちます。したがって「充分」は「物事の程度や状態が満たされている」という意味になります。
上述した「十分」と比較すると一般的に使用される頻度は少ないですが、文学的な表現では「充分」が多用される傾向にあります。「十分」という字に後から「充分」という文字が当てられ、使われるようになったと言われています。
また、平仮名で「じゅうぶん」と表記することも増えたことから、公用文では平仮名の使用も許容されており、10分(時間)と誤って認識される可能性がある文脈の場合は「充分」、もしくはひらがなで「じゅうぶん」と表記するのが好ましいです。
以上のように「十分」「充分」ともに「条件を満たしていて、不足なく、満足できるさま」を指し、どちらかの表記が誤用にあたるということはありません。新聞紙面では、「十分」という表現に統一されています。したがって、正式な文書であれば本来の「十分」にしておくのが無難です。
記事の参考文献
- 編 藤堂 明保・松本 昭・竹田 晃・加納 喜光・ (2001)『漢字源』改訂新版, Gakken.
- 公益財団法人日本漢字能力検定協会.『漢字ペディア』.<https://www.kanjipedia.jp/>(参照日2024年9月23日).
- 編 新村 出 (2008)『広辞苑』第六版, 岩波書店.
- 編 沖森 卓也・中村 幸弘(2015).『ベネッセ表現読解国語辞典』
- 編 一般社団法人共同通信社 (2022). 『記者ハンドブック : 新聞用字用語集』第14版,共同通信社.
- 小学館.『デジタル大辞泉』. <https://dictionary.goo.ne.jp/jn/>(参照日2024年9月23日).
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