「脅迫」と「強迫」の意味と違い

「脅迫」と「強迫」の意味と違い

「脅迫」と「強迫」の意味と違い

脅迫」と「強迫」は、いずれも「きょうはく」と読み、「相手を怖がらせる行為」という共通点はありますが、それぞれの意味や使い方には微妙な違いがあります。

本記事ではその「脅迫」と「強迫」の意味と違いを深掘りし、用例などを通じて、使い分けのポイントについて解説していきます。

紛らわしい言葉ですが、使い分けることができれば、表現の幅が広がりますので、ぜひ参考にしてみてください。

「脅迫」

「脅迫」とは

脅迫」は、「他人にあることを行わせようとして、生命や名誉などを害するとおどしつけること」や刑法上の用語として「他人に恐怖心を生じさせる目的で害を加えることを通告すること」という意味を持ちます。

脅迫」の「脅」は、「おどす」「人に迫っておびやかす」の意味があり、「迫」は、「せまる」「追いつめる」「圧力を及ぼして苦しめる」という意味があります。

したがって「脅迫」は、「相手を脅して、実行を迫ること」すなわち「他人にあることを行わせようとして、生命や名誉などを害するとおどしつけること」という意味になります。

なお、「脅迫」の類義語は、「恐喝」「強請」「威嚇」「強要」などが挙げられ、「脅迫」は「子どもに危害を加えるとの脅迫状が送られてきた」「脅迫電話が相次ぎ、彼女は警察に相談した」「SNSでの脅迫メッセージが社会問題となっている」のように使われます。

脅迫」は、相手にあることをさせる目的で、脅しつけることを意味し、明確な損害や罰を告げて、暴力をちらつかせたり、弱みにつけ込んだりして、相手を恐怖心で縛ろうとする行為を指します。

さらには、凶器や言葉、文書、ネットの中傷などで相手に恐怖心を与えて脅すことをいいます。

また「脅迫」は、犯罪を犯した人へ罰を与える法律の「刑法」で使われる言葉でもあります。

相手に恐怖心を生じさせるために、生命・身体・自由・名誉・財産などに害を加えると通告すること」が、刑法上での「脅迫」の意味になります。

「強迫」

「強迫」とは

強迫」は、「相手を自分の意に従わせるために無理強いすること、無理に意思決定させること」や民法上の用語で「他人に違法な害悪を示して恐怖心を生じさせ、その自由な意思決定を妨げること」という意味を持ちます。

強迫」の「強」は、「強い」「しいる」「無理に押しつける」という意味があり、「迫」は上述のとおり「せまる」「追いつめる」「圧力を及ぼして苦しめる」という意味があります。

したがって「強迫」は、「相手にあることをするよう、無理に要求すること」すなわち「相手を自分の意に従わせるために無理強いすること、無理に意思決定させること」という意味になります。

なお「強迫」の類義語は、「恐喝」「強要」「強制」などがあり、「強迫」は「この契約は、相手に強迫されてサインをしたものです」「彼女は強迫観念にとらわれて、何度もドアの鍵を確認してしまう」「失敗を極度に恐れる強迫観念が、彼を苦しめる」のように使われます。

強迫」とは、心理的な圧力をかけて、相手に自分の意志に反する行動をとらせる行為を指し、相手に対し、社会的な圧力や道徳的な義務感を使って、無理に何かをさせることをいいます。

また「強迫」は、一般に個人間の争いについて定められた法律の「民法」で使われる言葉であり、「相手に何らかの害を加えると告知することにより、相手の自由な意思決定を妨げる行為」が、民法上での「強迫」の意味になります。

なお「強迫」には、「無意味で不合理と思える考えや行為が、意志に反して支配的になる状態」という心理学としての意味もあり、不安や恐怖にとらわれて自分の意志に反して同じ考えや行動を繰り返してしまう状態を指します。

代表的なものは、「強迫観念」という言葉で、「打ち消しても打ち消しても浮かんでくる、不快・不安な考え」のことを意味し、家の戸締りをしてから出かけたはずなのに、鍵をかけたかどうか気になってしまうような状態のことを言います。

以上のように「脅迫」は、「相手を脅して、実行を迫ること」という意味を持ち、相手に対して具体的な不利益や損害を示し、恐怖を感じさせる行為を指し、法律上では「刑法」の用語として使われます。

一方「強迫」には、「相手にあることをするよう、無理に要求すること」という意味を持ち、心理的な圧力をかけて、相手に自分の意志に反する行動をとらせる行為を指し、法律上では「民法」で使われる用語になります。

なお、「脅迫」と「強迫」は区別しずらい言葉のため「強迫観念」「強迫性障害」のような、心理学としての意味以外は「強迫」はあまり使われず、厳密に言えば、「強迫」という意味の場合でも「脅迫」を使う傾向にはあります。

ただ、「刑法」と「民法」という法律が絡む場面では、両者をしっかりと使い分けることが望ましいです。

記事の参考文献

  • 偏 松村明・三省堂編修所(2019)『大辞林』第四版,三省堂.
  • 偏 山田忠雄・柴田武・酒井憲二・倉持保男・上野善道・山田明雄・井島正博・笹原宏之(2011)『新明解国語辞典』第七版,三省堂.
  • 編著 北原保雄(2010)『明鏡国語辞典』第二版,大修館書店.
  • 小学館.「デジタル大辞泉」. <https://dictionary.goo.ne.jp/jn/>(参照日2025年1月31日).
  • 公益財団法人日本漢字能力検定協会.「漢字ペディア」.<https://www.kanjipedia.jp/>(参照日2025年1月31日).
  • 編  一般社団法人共同通信社  (2022). 『記者ハンドブック : 新聞用字用語集』第14版,共同通信社.
  • 著者  鎌田正・米山寅太郎 (2011)『新漢語林』第二版,大修館書店.
北澤篤史サイト運営者
1984年(昭和59年)、大阪府生まれ。言葉への関心が高じ、「ことわざ」「漢字」「四字熟語」をテーマに複数のウェブサイトを立ち上げる。これらのサイトは、小中学校の教材として利用されるほか、単語カードやタイピングゲームなど多様な形で活用されている。著書に『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(講談社)、『マンガでわかる すごい!ことわざ図鑑〈試験に出る〉』(講談社)がある。