「施行」「施工」「試行」の意味と違い

「施行」「施工」「試行」の意味と違い

「施行」「施工」「試行」の意味と違い

施行」「施工」「試行」はいずれも「しこう」と読む同音異義語です。日常生活やビジネスシーンで多く見聞きする言葉ですが、これらの言葉にはどのような違いがあるのでしょうか。

本記事では「施行」「施工」「試行」の意味と違いを深掘りし、用例などを通じて、使い分けのポイントについて解説していきます。

紛らわしい言葉ですが、使い分けることができれば、表現の幅が広がります。ぜひ参考にしてみてください。

「施行」

「施行」

施行」は「実際に行うこと」「政策・計画などを実行すること」「公布された法令の効力を発生させること」という意味を持ちます。

施行」の類義語としては、「実行」「実施」「運用」などが挙げられます。

施行」の「施」は「おこなう」「ゆきわたらせる」「ほどこし与える」という意味を持ち、「行」は「いく」「おこなう」という意味を持ちます。

したがって「施行」は「実際に行うこと」という意味となります。

施行」は「しこう」のほか、「せこう」「せぎょう」と読む場合もあります。

「実際に行うこと」の意味では、「しこう」と読むのが一般的です。「予定通りに計画が施行された」のように使われ、何らかの政策・計画などを実行することを意味します。

「法令の効力を発生させること」の意味では、法律用語として「せこう」と読みます。「新しい道路交通法が来月から施行される」のように使われ、すでに成立している法令の運用が開始されることを意味します。

法律関係のニュースでよく見聞きしますが、官庁や法曹界などでは、「執行(しっこう)」や「失効(しっこう)」と間違えないように「せこう」と読むこととしています。

三つ目の「せぎょう」という読み方は、「僧侶や貧しい人に物を施し与えること」を意味する仏教用語になりますが、一般的に使われることは少ないです。

「施工」

「施工」

施工」は「工事を行うこと」という意味を持ちます。

「公共事業の施工には、地元業者が選ばれた」「リフォームの施工費用を相談する」「道路の拡張工事が計画通りに施工された」などのように使われます。

施工」の「施」は上述のとおり「おこなう」の意味を持ち、「工」は「物を作る」「たくむ」「物を作る人」という意味を持ちます。

したがって「施工」は、「工事を行うこと」という意味になり、建築や土木工事を実際に行うことを指し、建築関係で多く使われる言葉です。

道路や建物、インフラ整備など、設計図や企画書に基づいて計画的に行われる工事が「施工」に該当します。

施工」は「しこう」とも読みますが、建設現場では長い間の習慣により、「せこう」と読んでいたことから、現在では「建築関係」=「せこう」、「法律関係」=「しこう」と区別されています。

「試行」

「試行」

試行」は、「試しにやってみること」「大まかな見通しをつけた上で、実験や観測を繰り返し行うこと」という意味を持ちます。

「実験は試行回数の多い方が望ましい」「新しい技術を試行して、その効果を確認する」「試行錯誤の末、ようやく完成した」などのように使われます。

試行」の「試」は「ためす」「こころみる」という意味を持ち、「行」は上述のとおり「おこなう」という意味を持ちます。

したがって「試行」は「試しにやってみること」を意味し、新しい方法や計画などが成功するかどうかを確認するため、試しにやってみる行為を表します。

品質確認のために実験的な使用を繰り返す製品テスト、仕事への適性を確認する試用期間など、何かの情報を得る目的をもって、様々なやり方を試しにやってみることを指します。

また「試行」は数学の確率論の分野でも使われます。この場合は、例えば2つのサイコロを振って同じ目が出る確率の実験のように「結果が偶然起こる現象を繰り返し行う実験」のことを示します。

以上のように「施行」「施工」「試行」は、読み方は同じでも意味や使う場面が異なる言葉です。

法律や政策に関連し、実際に実行・実施する場合は「施行」、建築や土木工事に関連し、工事を実際に行うときは「施工」、新しいことを試しにやってみる試験的な行為の意味では「試行」と使い分けることが可能です。

記事の参考文献

  • 編 藤堂 明保・松本 昭・竹田 晃・加納 喜光・ (2001)『漢字源』改訂新版, Gakken.
  • 公益財団法人日本漢字能力検定協会.『漢字ペディア』.<https://www.kanjipedia.jp/>(参照日2024年11月22日).
  • 編 新村 出 (2008)『広辞苑』第六版, 岩波書店.
  • 編 沖森 卓也・中村 幸弘(2015).『ベネッセ表現読解国語辞典』
  • 編  一般社団法人共同通信社  (2022). 『記者ハンドブック : 新聞用字用語集』第14版,共同通信社.
  • 小学館.『デジタル大辞泉』. <https://dictionary.goo.ne.jp/jn/>(参照日2024年11月22日).
北澤篤史サイト運営者
1984年、大阪府生まれ。 著書 『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(講談社、2024) ことわざ学会所属。ことわざ研究発表『WEB上でのことわざ探求:人々が何を知りたいのか』(ことわざ学会フォーラム、2023)